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大阪高等裁判所 昭和31年(う)1503号 判決 1957年2月06日

控訴人被告人

態野熊次郎

弁護人

中谷鉄也

検察官

斉藤欣平

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は本判決書末尾添付の被告人本人作成の控訴趣意書記載のとおりである。

論旨は本件団体交渉は正当なものであり、退去命令を出したことは不当であるといゝ事実誤認を主張し併せて量刑不当を主張するのであるが、原判示事実はその挙示する証拠により証明十分である。右の証拠によると、被告人は昭和二十八年十二月十四日午後二時頃角島三郎、浜口竜幸等約三百名の人々と共に田辺市役所に至り、同所応接室において同市助役木村松次郎に面会したところ、同助役は市長に代つて自由労働組合の要求即ち(一)国及び県以外に年末手当一人七日分の金員支給(二)年末年始七日間有給休暇、(三)十二月及び一月の全員就労二十五日以上の稼働、(四)健康保険金労働者負担分八円の市負担の件については、県下の失業対策協議会の結果をまつて同月十七日以降に回答するからと申出たので之を不満とし、被告人は右浜口竜幸外約八十名の人々と共に右応接室及び之に隣接する各部屋を占拠した上引続き市長に面会を求めて喧騒を極めたので、同市長から同日午後四時十分頃助役室及び之に隣接する秘書室、庶務室等から退去すべ旨要求せられ、更に午後五時三十分頃田辺市役所庁舎から退去すべく要求せられたるに拘らず、被告人は右浜口竜幸等約八十名と共謀して労働歌を合唱して喧騒し同日午後六時五十分頃まで故なく退去の要求に応じなかつた事実を認めることができる。

そして右の様な情況の下においては原判決も説明しているように被告人等の団体交渉の要求はその正当性の範囲を逸脱したもので労働法上違法性を阻却するものとはいえないし又市長の出した退去の要求が不当なものとは認め難い。又所論の証人小森嘉人、前田関、木村川幸四郎、楠本英一、木村松次郎等の証言が信用性のないものとは考えられない。記録を精査しても原判決に事実誤認があるとは認められず、所論の諸点を考慮しても原判決が被告人を懲役三月に処し二年間右刑の執行を猶予したのを以て量刑が不当に重いとはいえない。論旨はいずれも理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 松本圭三 判事 国政真男 判事 辻〓一)

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